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Unityだからこそ実現できた少人数開発。ボトルキューブのSwitchタイトル『ジグソーマスターピース』とは

  • 東京・代官山に拠点を構える株式会社ボトルキューブ。受託開発をメインにしながら、自社開発したNintendo Switch版デジタルジグソーパズルゲーム『ジグソーマスターピース』がヒットしている。およそ20年の激動のデジタルクリエイティブの波を乗り越なしてきたボトルキューブがどうUnityを活用法しているのか、また『ジグソーマスターピース』がどう生まれたのかを山下賢一氏、村田康幸氏に聞いた。

     

    『iPhoneアプリといえばボトルキューブ』



    株式会社ボトルキューブ 開発統括本部 本部長 山下賢一氏


    株式会社ボトルキューブ プログラム部 部長 テクニカルディレクター 村田康幸氏

    まずは、ボトルキューブさんがどういう会社なのか、簡単な概要をお教えください。

    山下:ゲームの開発会社としては、意外と歴史が長くて、2001年起業の19年目の会社になります。基本的には受託開発をメインにしているんですが、ウチの場合は企画から開発、運営まで全てやってしまうんです。2008年ぐらいからは本当に『iPhoneアプリといえばボトルキューブ』みたいなイメージで、たくさんのiOSアプリを作ってきました。

    村田:ボトルキューブは2012年にサイバードグループに入りまして、そこからはサイバードのプロジェクトにも深く関わっています。2013年には『バーコードフットボーラー』(スマートフォン向け本格サッカークラブ育成ゲーム)にエンジニアとして関わりました。

    山下:人数としては17人いまして、エンジニアが5名、デザイナーが4名、プランナーが3名、その他にも品質管理部のメンバーがいます。企画のメンバーは「どうやったら売れる」かというところまで考えて提案をしていますし、サイバードで8年間やってきた運営のノウハウを生かしたゲーム制作を提案する会社です。特徴的なのは、この規模の会社には珍しく品質管理部があるところです。




    品質管理部というのはどういう部署なんですか?

    山下:鏡谷という者が担当していまして、サイバードの品質管理部の部門長でもあります。出す製品のバグを無くすのはもちろん、開発の早い時期から品質管理部が関わって、どうしたらテスト工数を削減できるか、どうしたらトラブルが出ないかを計画していくんです。開発以外にも、企画面での不備も改善しますし、開発後期に問題が見つかるのではなく、品質の高いものが作れるようにサポートしているんです。

    そういうコンサル的な方が最初から社内にいると、かなり作品自体のクオリティも確かなものになりますね。

    村田:はい。すごく貢献してもらっています。

     

    ネイティブ開発からUnityに




    御社でUnityを導入されたのは何年からですか?

    山下:2012年ぐらいから取り入れ始めました。

    かなり早い時期ですね。

    村田:その前は、ガラケーが全盛期でして、弊社も主にモバイルのガラケーアプリを作っていました。当時はあまりツールというものがなかったので、ネイティブでガリガリ書きながら「20Kしかない保存領域に何を保存しようか」と試行錯誤するような時代でしたね(笑)。その後に、弊社の川口(現会長)が新しいもの好きということもあり「これからはiOSをやるぞ!」と言い出したんです。そこからはiOSの開発環境であるXcodeを使って何年間か開発を続けていたのですが、サイバードグループに入った直後に開発規模の大きいスマホ向けアプリを作ることになりまして、開発の効率化を考えたときに、これからはUnityがいいんじゃないかと考えました。

    早い時期からだと、情報が少なくて苦労されたのでは?

    村田:そうですね。当時は、こんなにUnityが流行るとは思っていませんでした(笑)。今ではほとんどのエンジニアがUnityを扱えるようになっているので、「こういう機能が出たので、これ使ってみてよ」という感じで、メンバーとコミュニケーションを取りながらスキルセットを拡充していくようなこともしており、便利に使わせていただいています。

    現在はいかがですか?

    村田:例えば開発プラットフォームのリプレース案件の相談を受けたときに、フレームワークをいくつか提案して、そのメリットとデメリットを教えて欲しいという案件があったんですね。そういう時にも、弊社ではUnityを推すようにしています。理由としては、急な案件でもエンジニアを確保しやすいですし、リッチな表現を作れるので独自性も出しやすいというのがあります。あと、Untiyはマルチプラットフォームに対応していて、新しいプラットフォームが出てきた場合にも対応が早いので、そういった面でも、選択としてはかなり優先的に選ばせてもらっている気はします。

    Unity Proを導入された理由は?

    村田:Unityで開発している以上、Proにしかない機能を使って開発をより良くできないかは常に考えるようにしています。最近の例で言いますと、Cloud Buildがちょうどボトルキューブのような会社にはマッチしているなと思っています。開発を行っていると、様々な事情でエンジニアが少なくて、あまり人員リソースを割けないという状況のときに、CI環境をどうしようかという話にどうしてもなってしまうんですね。

    なるほど。

    村田:余裕があるプロジェクトだと、Jenkinsとかを使って細かいところまで自分達でカスタマイズしながらビルドしていくんですけれど、macOSのアップデートや、Unityのバージョンアップなどが必要になってくると、正常にビルドができなくなることも多くて、CI環境のメンテナンス作業が必要になってしまうことがあります。そんな状況でも対応できるエンジニアがいれば良いのですが、実際には対応できるメンバーがいないことが多い。そういうときにUnity Cloud Buildを使っていると、Unityのほうでビルド周りは担保してくれるので、エンジニアが少ない案件でも運用していけるという強みが出せます。サイバードの案件を含め、自分が関わる案件ではUnity Cloud Buildを多く使っていますね。

    サイバードでも、Unityが使えるエンジニアは多いんですか?

    村田:多いです。今はエンジニアを募集すると、Unity経験者が多くエントリーしてくれる時代ですので、プロジェクトを立ち上げるときには自然とUnityが採用される確率が高いです。逆にネイティブエンジニアは魅力が少なくなってしまっているのか、なかなか人が集まらず、古くから運用しているタイトルの保守が大変になっている、ということも起きています。

    『ジグソーマスターピース』開発秘話




    御社が企画・開発されたSwicth版『ジグソーマスターピース』の開発の経緯についてお伺いしたいんですけれども、まず、企画をされたのは?

    山下:私です。最初はSteam版で、2015年に開発を始めました。

    御社は受託開発がメインということですが、自社タイトルを開発された理由は?

    山下:いつか「パブリッシャーになりたい」という夢があるんですよ。とはいっても、受託中心でやっていて、かつ、会社の規模的にも小さいので、なかなか企画が難しくて。そんな中で、少ない工数で作れて、かつ、ヒットをしやすい物と考えたときに、私が前職でジグソーパズルのゲームをDSで出していたこともあり、ジグソーパズルにしようと。

    最初はパズルがアニメーションするものだったんですよね。

    山下:はい。『Animated Jigsaws』というタイトルで、パズルの素材が全部動画になっているものをSteamでPC用に販売しました。その中でジグソーパズルの売り方であるとか、素材探しで動画を見つける難しさなどいろいろな課題が見えてきて、結局シンプルに、静止画でやってみよう結論になり、『ジグソーマスターピース』に行き着いたんです。最初は、Windows版とMacintosh版をSteamで出したんですが、そのときからマルチプラットフォーム構想はありました。

    それでUnityを使われたんですね。

    村田:マルチプラットフォーム展開という意味で、Unityはかなり強いので採用しました。エンジニアの人員リソースが少なかったり、コストをかけたくない場合、ネイティブ開発は選択肢として残らないんですよね。その時にやはりUnityだと、少ない工数で多展開できるのが強みです。

    山下:Unityを使いだした当時、エンジニアだけでなくデザイナーもUnityのスクールに行かせて習得させたんです。それは今でもすごくいい面で、受託で開発する際にも、デザイナーがUnityを使えるというのはすごく強みになっています。私たちのWebサイトでも『動く背景』がサンプルとして載っていますが、それもデザイナーが最後オーサリングするところまでUnityでやっています。

    村田:書籍やネット上で情報が多いので、個人で勉強出来るという面でもUnityは敷居が低いといいますか、導入難易度が低めなのでデザイナーも積極的に学習してくれるというのは、強みとしてありますよね。

    そうなんですね。ところで、『ジグソーマスターピース』の難易度調整というのは、どういうふうに行われているのですか?

    山下:まず、ピースについては、最初にすごくいろいろ考えて。30分ぐらいで解けるものから、2時間ぐらいで解けるもの、またはそれ以上という形で、今は3種類のピース数を用意してあります。



    なるほど、解く時間で考えていらっしゃるんですね。

    山下:はい。Switch版では、ピース数をSwitchに合わせています。手で持ってタッチでも遊ぶのと、テレビで遊ぶのでは感覚が全然違うので、そこはもう割り切りました。絵の選択については、今、リリースしていないのも含めると、30タイトル近くあるんですけど、数タイトルを除いて全部私が選んでいます。

    どういう基準で選んでおられるんですか?

    山下:コンセプトは『迷わない』ということです。売れるか売れないかは関係なく、とりあえず出してみる。変わったところだと、ウミウシだったり、日の丸弁当だったり。

    日の丸弁当って、めちゃくちゃ難易度が高いですね(笑)。

    山下:そうなんですよ。『ジグソーマスターピース』のビジネスモデルは、100円でメインタイトルを売って、そこから追加パックを売っていくというかたちなんですけども、追加パックが300円~400円で、1パックに10枚の絵が入っているんですね。例えば「フードテクスチャ」というテーマで、コーヒー豆が並んでいるなどの難易度の高いものを出しています。でもやっぱり、一番人気なのは動物もの、特に猫ですね。

    そうなんですね。やっぱり猫は間違いないんですね。

    山下:最近は、写真集を出されているような有名なカメラマンさんが撮影した猫のアーティストパックも出しています。『ジグソーマスターピース』を作る時にすごく意識したのは、紙のジグソーパズルとはまた違う爽快感というのもので。ピースがハマるときのサウンドなど、デジタルならではの面白さを追求したいなと。ジグソー自体はシンプルなものなので、極端な話、デザイン的な面であまり凝っても、面白さに直結しないんです。「とにかくシンプルに作っていこう」というのことが根本にありました。

    遊んでいて楽しい、インタラクティブな爽快感みたいなものは、すごく意識されたんですね。

    山下:そうですね。なかなか言葉で説明しづらいんですけど、やっぱり紙とは違う爽快感は意識しています。例えば厳密にピースを正解の位置に合わせなくても、近くに行くと、自動的にくっつくようになっているんですよね。他にも、縁のピースをまとめる機能も、デジタルならではですよね。単純にジグソーパズルをデジタルにしたのではなくて、やっぱりデジタルならではのジグソーパズルにしているというところが、受け入れられているところかなと思ってはいます。

    ピースの形はshaderで作る





    技術的な面では、苦労はありましたか?

    村田:ピースの曲線を出すのに、最初は単純に画像データで対応しようとしていたのですが、技術的な壁にぶつかりまして、最終的にはshaderを書いて解決しました。やっぱり絵の境界線がちゃんと見えないとジグソーパズルとして成り立たないので、そこが技術的には一番気をつけました。Unityだとshaderも書きやすくなっているので、方針さえ決まればそんなに苦労はしないんですが、shaderでやろうと行き着くまでにかなり悩みましたね。

    shaderのコード

    マスク画像

    ピースの立体感用画像

    パズル画面の一部

    上記のワイヤフレーム
    ※1ピースを2ポリゴン(四角形)で描画しているので、ピースの形はshaderで形作っている

    山下:Unityの話で言えば、Steam版とSwitch向けでは、インタフェースも変えているんです。そこで担当したエンジニアが実は違うんですよね。メインが作った人のソースからブランチを分けるというやり方でやっているんですが、どちらもUnityが使えるので、そこまで情報共有をしなくても、ある程度は移植作業が進められました。

    村田:やっぱりどうしてもネイティブで書いてしまうと、ソースコードを読む時間とか、新しい開発プラットフォーム向けの勉強期間が必要になってしまいますけども、そこがUnityだと、ミニマムコストで作れるので、そこは使っていて非常に良い点ですね。



    山下:『ジグソーマスターピース』は私とエンジニアの2人でやっているんですけど、実はデザイナーがいないんです。

    え!?すごいことですね。

    山下:最初のPC版では、ロゴも私が作っていたんです(笑)。やっぱりいろいろな方に遊んでほしいので、『ジグソーマスターピース』ではいろいろ絵柄をどんどん出していきたくって。やはりエンジニアを確保しづらいというのもあるので、全部自分でできないかなと思って。「Unityだったらあり得なくはないよな」と思ったりもしています。

    村田:Unityだとネイティブ開発と違って、環境構築の敷居が低いので、インストールさえしてもらえれば、とりあえず動く環境を作れてしまうので、作業を依頼しやすいというのもありますね。

    だからもう、プランナーとエンジニアが2人きりでも、Switchタイトルが作れてしまうという。

    山下:そうですね。普通のインディ作家よりも、うちのほうがインディに近い作り方何じゃないかと思いますよ(笑)。

    受託も大切ですが、自分たちでリリースしたタイトルがあると、社員さんたちのモチベーションも上がると思うんですよね。

    山下:そうですね。でも、売る側も簡単なビジネスではないですからね。Switchは本当に、Unityを使ってもすごく作りやすくなっているので。今まではダウンロード版においてもCEROの倫理審査が必須だったところ、IARCだけでも販売できるようになったので、より参入してくるパブリッシャーさんやメーカーさんが増えそうなので競合も増えそうなんですが。会社として生き続けることも重要ですからね。受託メインでやるというスタンスは保ちつつも、自社開発、どちらも回していきたいと思っています。そして、ダウンロード販売がメジャーになってきたので、在庫リスクがないというのは、パブリッシャー側としてはありがたいですね。

    在庫リスク!それは一番恐ろしいものですからね。それから開放されて自由な発想のゲームが作れるというのは嬉しいことですね。

     

    ボトルキューブのこれから






    それでは、最後にボトルキューブのこれからの展望について教えてください。

    山下:今、ゲームの背景画の仕事がすごく多いんですね。特に高密度な背景というのを提供したいと思っているので、Unityでモックを作ってちょっと動かして、背景の魅力を伝えるとともに、あとはゲーム開発会社ならではのこういうデザイン受託もできるよという、エンジニアだけじゃなくてデザイナーもUnityが使えますというところを見せることができればなと。

    村田:僕はさらに、UnityのAnimatorだったり、Cinemachineだったり、新しい機能をどんどん取り入れていきたいですね。小規模の受託開発ならではだと思うんですけど、R&D的な部門をつくりきれないという悩みはあるので。やり方としては、稼働が少し空いてしまったタイミングで、Unityという作りやすいツールを使って、短期的に一発集中型で作り切ってしまうというのは手法としてありだと思いますので、そういったところでチャンスが生まれればいいなとは思っています。

    山下:私が入った頃は『iPhoneアプリだったらボトルキューブ』というのがありましたけど、それに代わる強みをまた作って、コンシューマーユーザーにも、クライアントにも喜んでもらえるものを次々に出していけるような開発会社になりたいなと思っています。

    村田:ボトルキューブはブルーオーシャンの分野を探して、狙って、頑張るという会社なので、何とか今の時代を生き続けながら、新しいプラットフォームが出来たときには一気に開発を回すための力というのは付けておきたいなというのはありますね。今はゲームのお客さんが動画に取られている面も感じていますので。

    山下:実はボトルキューブで昔、『PUFF!』というスマホアプリがありまして。息をフーッとやって、スカートをめくるというコンテンツなんですが(笑)。

    ありましたよね!覚えています。

    山下:今でも、『PUFF!』のモデルさんが、「私『PUFF!』のモデルなんです」と言ってくれているくらい皆さんの記憶に残っているコンテンツなので(笑)。そんな風に、皆さんに楽しんでもらえるコンテンツを作っていきたいですね。

    楽しみにしています。ありがとうございました。

     

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