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高木さんがすぐ目の前に!『からかい上手の高木さんVR』を生んだ、カヤック天野清之氏に聞く

  • これまでに様々なユニークなプロジェクトをリリースしてきた面白法人カヤックが手掛けた、『からかい上手の高木さんVR 1学期』。高木さんのからかいを擬似体験できる次世代VRアニメーションとして、ファンの間で高い評価を受けた。Unity Proを導入し、数々のコンテンツを生み出してきたカヤックが、果たしてどのようにこのプロジェクトを作り上げたのか?企画・プロデュースを手掛けたクリエイティブ・ディレクター/テクニカル・ディレクターの天野清之氏にお伺いしました。


    ■Unityを使うことで業務範囲が広がった




    カヤックではUnity Proを導入し、数々のコンテンツを手掛けておられますが、今現在Unityエンジニアは何名くらいいらっしゃるんでしょうか?

    天野:自社事業と受託開発に分かれていて300人ぐらいいます。自社事業では、アプリ開発とソーシャルゲーム開発を行っています。全体のエンジニアは約3~4割、その中でもUnityを使うエンジニアは八割くらいでしょうか。

    かなり多くのエンジニアさんに使っていただいていますね。Unityを導入されたのはいつからですか?

    天野:Flash開発をしていたんですが、iPhoneアプリの開発が求められたタイミングになったので、Unityへの移行をはじめました。2013年にリリースしたピザ注文アプリ『Domino's App feat. 初音ミク』はUnityで作っていて、売上が数億円を越えたり、広告賞を獲ったり、大きな反響がありました。



    すごく話題になりましたよね。覚えています。2014年のUniteにもご登壇いただきました。カヤックではUnityでもかなり初期に既に移行を初めていたというわけですね。Unity導入以前と導入以後で変わったことはありますか?

    天野:大きく変わったことは、業務範囲が爆発的に広がっていることです。いわゆるIoT(Internet of Things)ですが、あらゆるものがネットワークに接続されている時代なので、Unityをあらゆる分野で活用することのできる形になりつつある。いろいろな表現が年々Unityでできるようになっているというのが導入後に変わったことです。

    アプリや画面の中に限らず、その外のことまでUnityでまかなえるということですよね。

    天野:そうです。例えば、床敷きのLEDディスプレイのグラフィック表現も、Unityであれば色々なソフトと連携しグラフィカルでインタラクティブに作ることが可能です。こうしたソフト関連系もUnityユーザーが多いのでツールや情報が多かったりしますし、他のエンジニアとも協力して開発連携しやすいです。他には、例えば複数のプロジェクトを持ったときに、短期間で実際に手を動かしてくれるエンジニアさんを外から迎える場合にも募集がしやすいというメリットがあります。

    エンジニアの母数が多いから、ハイアリングがしやすいというか。

    天野:はい!そうです。



    映画『踊ってミタ』(主演:岡山天音 監督:飯塚俊光)より、天野氏がCGクリエイターとして参加し、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのオリジナルキャラクター「ユニティちゃん(大鳥こはく)」を映像制作したメイキング動画。『踊ってミタ』はDVDにて発売中。

     


    ■最強のチームづくり




    天野さんは、『傷物語VR』や『宝石の国』のオープニング、米津玄師さんの『LOSER / ナンバーナイン』など数々の人気コンテンツを手がけられていますが、カヤックの中ではどのような立ち位置におられるんですか?

    天野:僕自身は、その中でもXR系の技術に特化した「Rewrite」という20名ほどの部隊を率いていまして、Unityなどを使ったリアルタイムのレンダリングで表現し、現実を上書きするような体験を作るというコンセプトで活動しています。米津玄師さんの『LOSER / ナンバーナイン』では、リアルタイムに3次元空間へとペイントできるソフトをUnityで開発しました。赤外線マーカーで頭と手の位置を取得し、仮想空間と現実空間の位置を連動させ、手の動きを検知することで、仮想空間にイラストを描くことができるんです。ちなみに、『傷物語VR』や『宝石の国』もUnityで作っています。




    XR系に特化した部隊があるからこそ強いわけですね。他にはどのような部門があるんですか?

    天野:カヤックには様々なクリエイターのチームがあり、工業製品のR&Dとして、メーカーとアプリの研究開発を何年がかりで行ったり、広告案件として、最先端の技術にチャレンジするチームもいます。マンガ・アニメ・ゲーム・音楽というエンターテインメント業界に特化しているのは、技術系演出部隊は、僕のチームの特徴です。

    Rewriteでは、こうしたエンターテインメントとXRを融合したコンテンツを作っていかれているわけですね。チームの構成はどうなっているんですか?

    天野:Rewriteのメンバーは、全員Unityを扱えるのが基本で、そこにプラス『何か』ができるというチームなんです。アニメーター、モデラー、UI・UXデザイナーなどビジュアル面を強めているメンバー構成です。そして、プロジェクトの進行管理をしているメンバーが数名います。

    すごくバランスのいいチームですね。

    天野:僕のところに「この仕事をして欲しい」というお話を頂くので、それをチーム内で実現していくという形になっています。

    チーム内でプロジェクトが企画から実装まで完結できて、しかも近い所にいるから意見交換もしやすい。最強ですよね。

    天野:そうですね。実際の作り方は、企画をしてから、どこを技術的に掘っていくかという話をメンバーとしながら進めていきます。モデリングやアニメーションに人数がかかる場合は、モデラー、アニメーターが多く所属している「アキバスタジオ」のメンバーと連携して作ることが多いです。


    カヤックアキバスタジオ

     


    ■高木さんのかわいらしさはどう作られたのか




    それでは『からかい上手の高木さんVR』(以下高木さんVR)のメイキングについてお伺いさせて頂きたいのですが、そもそも原作が人気のコンテンツですので、VRにするには苦労があったのではないかと思うんです。ファンの期待を裏切らないようなものにしなければならない、ということもありますし。

    天野:『高木さんVR』は、小学館さんとカヤックの共同開発という形になります。出資もカヤックが行って、開発からパブリッシャーまでを総合的に関わっております。

    そういうことだったんですか。なぜ、高木さんのVR版を作りたいと思ったんですか?

    天野:『高木さん』の広告プロモーションを数年前から担当する機会がありまして身近な作品でした。小学館の方とVR作品を作ろうという話になったのは2年半ぐらい前ですね。『傷物語VR』を作っていた時に、キャラクターとの対話型のコンテンツや、作品に没入するような体験型のコンテンツをもっと深めて作りたいと思っていたので『からかい上手の高木さん』はうってつけの作品でした。



    確かに、『高木さんVR』は本当に高木さんと交流しているような没入性がありますよね。

    天野:アニメはストーリーを俯瞰的な形で見ていくものですが、VRだったら自分が主人公でもいい。今はのVR作品は黎明期なので、VR空間の中でのお作法とか、コンテンツとして何が正しいかは特に正解がないんです。そこで『からかい上手の高木さん』という作品自体がぴったりだと思いました。企画から試行錯誤しましたが、やっと実現しました。

    制作にあたっては何人くらいのチームで行われたんですか?

    天野:少数での開発です。VR開発の中心メンバーは7名程度、Unityエンジニアは2.5名です。

    驚きました。

    天野:クラウドファンディングでは返礼品として250万円の等身大フィギュアというのも作っています(笑)。フィギュアとVRのモデリングデータはベースは一緒なんです。


    等身大フィギュア

    脚本ではどのようなことを意識されましたか?

    天野:ポイントとしては、開発の部分を意識したことですね。通常の会話劇に、どういうタイミングでゲーム的なエッセンスを入れていくかを脚本段階から意識していたんですね。原作から会話劇をフィーチャーしながら、同時に、ゲームの仕様も書いていくという。



    天野さんが作成した資料

    やはりVRとして、けれん味のあるシーンを作るということを意識されながら、脚本を書かれているのですか?

    天野:そうですね。先ほどお話をしたようにストーリーとゲームのシステムが混在するようなコンテンツなのでうまくごまかさないとユーザーの体験は微妙になってしまいますのでいろんな側面から脚本制作を意識していきました。システム的な部分だけでなく、設定などもVR用にしっかり作りました。


    ロケハン写真


    背景などもロケハンをしておりまして、舞台は鎌倉です。なので、海のシーンなどは由比ガ浜です。物語に出てくる帰り道も鎌倉の学校や由比ヶ浜の位置関係を調べて、いい場所を探しました。相合い傘をするときに、道幅が広すぎると距離感がつくれないので、ちょうどいい細道を現地で探したりすることで現実感なども作っています。また、高木さんと西片の距離感を描くのに、VRを被ったユーザーと高木さんの位置関係や空間の広さなどで感じられるようにもしています。

    そこまでリアルにこだわっているんですね。

    天野:結局、ユーザーの視点や行動を誘導していかないと、プレイしていて疑問点が生まれやすくなるんです。ユーザーがあまり思考しなくても、スムーズにゲームのプロセスを踏ませるようにしたくて、演出構成仕様を作っていきました。

    高木さんの動きは、モーションキャプチャーですか?

    天野:はい。撮影はモーションキャプチャーです。VRを使いました。カメラを主人公の目線にして、いわゆるOculusをかぶったときのユーザーの目から見た高木さんの構成と立ち位置の関係を作って、どういう行動範囲でどう呼びかけたり、どうプロセスをとったりすると違和感がないかを、普通に演技するような形で演じていただいたんです。日本は家が狭いので、狭い範囲の中でも楽しめるように、ということも意識しています。




    モーションキャプチャー撮影の様子

    『高木さん』は定着しているコンテンツなので、ファンのイメージを壊さないようなVR体験を作るということがやっぱりスゴイと思うんです。その『高木さん』らしさをどういうふうに表現していったんでしょうか?

    天野:ある程度、脚本と声優さんの声で『高木さん』らしさは感じてもらえますから。そこから先のモーションという意味では、ユーザー体験上の側面で見るのと、「高木さんがやる動き、やらない動き」のような細かい機微は徹底しました。手を振って招く動作や、ピースの動作のようなものですね。そのために、モーションリストというのを作ったんです。


    モーションリスト

    そういう客観的な資料を作ることによって、かなり開発速度も上がるのではないでしょうか。

    天野:そうですね。開発効率という側面では、かなり良かったと思っています。キャプチャの動きをそのまま開発に入れられますから。位置合わせや距離感などのモーション補正が少ないので、楽でした。それは事前の資料の作り込みを細かくしたからだと思うんです。


    原作のシーンを抜き出すところからはじめ、そこから演技内容へと落とし込む

    Unityで開発する上で、「これは良かった」という機能やアセットなどありますか?

    天野:レンダリングする時に、「フォービエイテッド・レンダリング」を使いました。これは領域をちょっと絞ってレンダリングして、視点から離れるほど解像度がボケるというものなんですが、それで解像度が減るとスペックが稼げるんです。

    臨場感だけではなくて、スペックの切削にもつながるんですね。

    天野:また、いわゆる「VR酔い」にも影響があって、酔いが減るんですよ。また、独自でshader開発をして、トゥーンレンダリングと通常のレンダリングの中間的な位置を狙っています。




    天野:はい。あとは、フェイス系のリグを組んで、まぶたや口の形など、頬とかを含めて調整がきくようにして、顔の表情の変化を細かく手で付けています。原作の漫画を見つつ、創作も生かして、大きめに表情がつくように作っています。


    リグ

     


    ■「2学期」発売!




    2020年12月3日には、第二弾の「からかい上手の高木さんVR 1&2学期」が「Oculus Quest」「Oculus Quest 2」で、リリースされましたね。

    天野:はい。『1学期』はどちらかというと、キャラクターと自分とを演劇のように、漫画を追体験できることにフォーカスしていましたが、『2学期』のほうは、高木さん(キャラクター)と勝負する要素を多く追加しています。「ストーリーモード」と「フリーモード」があって、フリーモードでは高木さんとポーカー、釣り、雪だるまの勝負だけに集中するモードになります。真剣勝負ができる分、一緒に遊んでいるような体験が強く感じられるかもしれません。



    高木さんともっと距離が近づきそうな。

    天野:はい。ただ、高木さんのポーカーは激強です(笑)。グラフィックのクオリティも、ゲーム自体のやり込み要素もかなり上がっていますので、ぜひ楽しんでください。

    楽しみにしています。ありがとうございました。



     

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